原産地呼称統制の制度はヨーロッパ各地にあり、今回はイタリア、スペイン、ポルトガルの
チーズについてお勉強しました。
フランスでAOCと表されるこの制度は、イタリア、スペイン、ポルトガルではDOPと表記されます。
イタリアのDOP(Denominazione d’Origine Protetta)チーズは33種。
北部地域のDOPチーズは22種で20種が牛乳製で圧倒的に多く、逆に中南部では11種のDOPチーズのうち
ペコリーノと呼ばれる羊乳チーズが混乳製を含めると8種製造されています。
イタリアDOPチーズ生産量第1位はグラナパダーノ、第2位はパルミジャーノ・レッジャーノ、
第3位はゴルゴンゾーラでいずれもポー川流域で製造されています。
イタリアを旅行された三原さんのお話によると、イタリアでは自称DOPチーズを名乗る製造者が多く、
実際の数が把握できないのが現状とか。
ローマで作った羊乳チーズを「ペコリノロマーノ」と名前を付けて売っていたのを見かけた時、
どう見てもそれではないので、何故その名前を使うのかと聞いたら、
「ローマで作っているペコリーノだから当たり前だ」という返事が返ってきたそうです。
この大らかなところがイタリア人ってウチナーンチュみたいですね(笑)
フランスのように政府機関の管轄ではなく、其々が独立した保護協会を運営しているので、
どうしても管理が甘くなってしまうのではないでしょうか。
統一されたロゴマークがなく、其々のチーズにはそのチーズをデザインしたロゴがあり、
それはそれで楽しいですね。
何しろ、イタリアは国家として統一されたのが1870年でまだ141年しか経っていないので、
国家意識よりも郷土意識が強いのは無理のないことです。
スペインのDOP(Denominacion de Origen Protegida)は22種。
イベリア半島の6分の5を占め、三方を海に囲まれているスペインは、地理的には北部、中央部、
東部・東南部とバレアレス諸島及びカナリアア諸島の3つの地域に分けられます。
緑のスペインとよばれる北部は、降雨量が多く豊かな牧草に恵まれているため牛乳製のチーズが
多く生産されています。テティージャや青カビのカブラレスが有名ですね。
中央部はメセータとよばれる高原地帯で羊の放牧をしながら移動する遊牧民が多く、
12世紀から19世紀まで羊毛の一大生産地でしたが、化学繊維の発明やオセアニアの台頭で
羊毛業が衰退の危機に見舞われたことで、遊牧民が定住して羊毛用の羊を乳製品に転用したことから、
羊乳チーズの生産が飛躍的に増加しました。マンチェゴは今やスペインを代表する羊乳チーズです。
地中海に面している東部・東南部、バレアレス諸島、カナリア諸島では山羊のチーズが多く製造されています。ムルシア・アルヴィーノ、マホレロなどの素晴らしい山羊乳チーズがあります。
ポルトガルのDOP(Denominacao de Origen Protegida)チーズは11種。
ポルトガルはイベリア半島の南西に位置し、アゾーレス諸島、マディラ酒で有名なマディラ群島を含め
海洋国家として伝統的に漁業が盛んです。酪農も古代から行われており、見た目はとても地味ですが
滋味深い味わいのチーズが多数作られています。
乳種は羊乳製が6種、山羊1種、牛乳製2種、混乳製2種で、凝乳酵素に植物性レンネット
(朝鮮アザミのおしべ)を多く使用するのが大きな特徴です。少し苦味のある味わいがその証ですね。
ケイジョ・セーラ・ダ・エストラーダが植物性レンネットを使ったチーズの代表です。

これはカルドとよばれる朝鮮アザミのおしべを乾燥させたもの。これに水を加えて漬けこみ
凝固剤を抽出して使います。 東京のチーズショップ・アルパージュの森さんから
スペインのお土産にいただいたものです。
三原さんの卒論は、生姜で凝乳酵素を作るがテーマだったそうです。
色々な植物で試したところ、最終的に生姜に行きついたということだそうですが、一般的には
植物の酵素はかなりの苦味成分が出てしまうために、チーズ製造には不向きのようです。
冒頭でもお話しましたように、ポルトガルチーズは現在入手がほとんど不可能なので試食することは
叶わなかったのですが、数年前に食べた記憶では、地味ながら噛みしめるほどに深い味わいで、
こんなチーズに魅かれるのは年を重ねたせいもあるのかしらん。